こんにちは。オフィスチェアラボ、研究員Kです。
オフィスチェアを探していると、「エルゴノミクスチェア」「人間工学に基づいた設計」という言葉をよく目にします。なんとなく体に良さそうに聞こえますが、具体的に何がどう違うのか、どれを選べばいいのかは分かりにくいですよね。
実は、「エルゴノミクス」という言葉には、はっきりした基準があるわけではありません。名前だけで選ぶのではなく、座面の高さ・奥行き・肘掛け・背もたれなどを、自分の体格に合わせて調整できるかを確かめることが大切です。
この記事では、エルゴノミクス(人間工学)の考え方と、オフィスチェアでいう「体に合わせる」とはどういうことかを、厚生労働省のガイドラインや日本オフィス家具協会(JOIFA)の目安をもとに解説します。私が毎日使っているニトリのOC707の調整機能も例に挙げながら紹介します。
- エルゴノミクス(人間工学)とは何か
- オフィスチェアで体に合わせるための調整機能
- 体格に合わせた調整の目安
- 「エルゴノミクス」の言葉だけで選ばないためのポイント
エルゴノミクスのオフィスチェアとは
まずは、エルゴノミクスという言葉の意味と、オフィスチェアでどう使われているのかを見ていきます。
エルゴノミクス(人間工学)とは
エルゴノミクス(ergonomics)は、日本語では「人間工学」と呼ばれます。人の体の大きさや動き、感じ方などの特徴に合わせて、道具や作業環境を設計しようという考え方です。
オフィスチェアでいえば、「人が椅子に合わせる」のではなく、「椅子を人の体と作業に合わせる」という発想になります。体格は人によって大きく違うので、一つの決まった形で全員に合う椅子を作るのは難しく、さまざまな部分を調整できるようにすることが、エルゴノミクスの考え方を活かす方法の一つになっています。
エルゴノミクスチェアに決まった定義はない
注意しておきたいのは、「エルゴノミクスチェア」「人間工学チェア」という呼び方に、決まった基準や定義があるわけではないということです。どの機能があればエルゴノミクスと呼べる、という線引きはなく、メーカーごとに使い方が違います。
そのため、「エルゴノミクス」と書かれているかどうかよりも、実際にどこをどれくらい調整できるのか、その調整範囲が自分の体格に合うのかを確かめることが大切です。言葉の印象だけで選ぶと、自分には合わない椅子を選んでしまうこともあります。商品ページを見るときは、「人間工学」「エルゴノミクス」という言葉の近くに、具体的にどんな調整ができるのか、座面高などの数字が書かれているかを確認してみてください。
公的なガイドラインでの考え方
椅子と姿勢については、公的な目安も示されています。厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」は、椅子に深く腰かけて背もたれに背を十分当て、足裏全体が床に接する姿勢を基本としています。足が床に届かない場合は、すべりにくい足台(フットレスト)を使うとしています。
また、同ガイドラインの解説では、床からの座面の高さは37cm〜43cm程度の範囲で調整できることが望ましいとされています。ここでいう座面の高さは、実際に座ってクッションが2〜3cm沈んだ状態の高さで、市販品の表示(沈む前の高さ)とは違う点に注意が必要です。
JOIFAの座り方の目安
日本オフィス家具協会(JOIFA)も、座面高とデスクの高さの目安を示しています。座面高は「身長×1/4」、デスクの高さは「座面高+身長×1/6」が目安です。
| 身長 | 座面高の目安 | デスク高の目安 |
|---|---|---|
| 150cm | 約37.5cm | 約62.5cm |
| 160cm | 約40cm | 約66.7cm |
| 170cm | 約42.5cm | 約70.8cm |
| 180cm | 約45cm | 約75cm |
JOIFAは正しい座り方の目安として、座面の奥まで深く座る、骨盤の上の部分を背もたれにしっかり付ける、かかとを床に付ける、太ももはほぼ水平で膝から下は床とほぼ直角、といった点を挙げています。エルゴノミクスの考え方で椅子を選ぶなら、この姿勢をとれるように調整できるかが一つの基準になります。
JISで定められた椅子の試験
オフィスチェアの品質については、日本産業規格(JIS)のJIS S 1032(オフィス家具―椅子)があります。この規格では、座面や背もたれの耐久試験(座面950N×5万回、背もたれ330N×5万回)や、静的強度試験などが定められています。
JISは主に強度や耐久性についての規格で、「体に合うかどうか」を決めるものではありません。ただ、長く安心して使える椅子かを考えるうえでの一つの参考になります。
エルゴノミクスで大切な調整機能
体に合わせるために、オフィスチェアで調整できる主な部分は次のとおりです。
| 部分 | 調整の内容 | 合わせる目安 |
|---|---|---|
| 座面高 | 上下に動かす | かかとが床につき、太ももがほぼ水平 |
| 座面奥行き | 座面を前後にスライド | 膝の裏に座面の先が当たらない |
| 背もたれ | 角度の調整・固定、ロッキング | 作業と休憩で使い分ける |
| ランバーサポート | 高さや張りの調整 | 腰のくびれに自然に沿う |
| アームレスト | 高さ・前後・左右・角度 | 肩が上がらない高さ |
| ヘッドレスト | 高さ・角度 | 寄りかかったとき頭が自然に乗る |
すべての調整機能が必要なわけではありません。機能が多いほど調整の手間も増えるので、自分の体格と作業に必要な機能を見極めることが大切です。
体格の違いと調整範囲
エルゴノミクスの考え方で大切なのは、「調整できる」だけでなく、「その範囲が自分の体格をカバーしているか」です。同じ椅子でも、背の高い人と小柄な人では、合う・合わないが分かれます。
そのため、同じモデルで体格別のサイズを用意しているメーカーもあります。たとえばニトリのOC707には、レギュラーサイズ(座面高約45〜52cm)と、スモールサイズ(座面高約43〜50cm)があります(ニトリネットの仕様表より)。同じ機能でも、座面高の範囲が約2cm違うだけで、小柄な人の座りやすさは変わってきます。自分の体格に合うサイズがあるかも、確かめておきましょう。
座る時間で必要な機能は変わる
どれくらい調整機能が必要かは、1日に座る時間によっても変わります。一般的に、1日の作業時間が長いほど、調整機能の多い椅子のメリットは大きくなります。
- 1日数十分程度:座面高が合えば、シンプルな椅子でも十分なことが多い
- 1日数時間:座面高に加えて、背もたれやアームレストの調整があると合わせやすい
- 1日中座る:座面奥行き、ランバーサポート、多方向アームなど、細かく調整できると便利
勉強・書き物・パソコン作業・ゲーム・くつろぎなど、主な姿勢が前かがみか、後ろにもたれるかによっても、向いている機能は変わります。
エルゴノミクスのオフィスチェアの選び方
ここからは、エルゴノミクスの考え方で、実際に椅子を選ぶときのポイントを紹介します。
まずは座面高の範囲を確認
体に合わせるうえで、いちばん基本になるのが座面高です。座面高の調整範囲が自分の体格に合っていないと、ほかの機能がどれだけ充実していても、正しい姿勢をとりにくくなります。
特に注意したいのは、最低の高さです。小柄な人は、座面を一番低くしても足が床につかないことがあります。反対に、背の高い人は、一番高くしても低いと感じることがあります。商品の仕様表で座面高の範囲を確認し、自分の目安(身長×1/4)と比べてみましょう。
座面奥行きと座面スライド
座面の奥行きも、体に合わせるうえで大切なポイントです。奥行きが体に対して長すぎると、深く座ったときに膝の裏に座面の先が当たり、太ももの裏が圧迫されます。反対に短すぎると、太ももを十分に支えられません。
座面スライド機能があれば、座面を前後に動かして奥行きを調整できます。ニトリのハイパフォーマンスオフィスチェアOC908は、商品説明で「座面昇降や座面スライドを操作するレバーが肘置きの下に配置されており、操作が簡単です」と紹介されています。体格の違う家族で共用する場合などは、座面スライドがあると便利です。
背もたれとランバーサポート
背もたれは、作業中の姿勢と、休憩中の姿勢の両方を支える部分です。角度を調整して固定できるか、ロッキングの硬さを変えられるかを確認しましょう。背もたれだけでなく座面も連動して動くシンクロロッキングは、倒れても足が浮きにくく、姿勢が崩れにくいのが特徴です。
ランバーサポートは、背もたれの腰の部分を支えるパーツです。高さや張りを調整できるもの、自動で追従するもの、固定のものがあります。強すぎると腰を押されて違和感が出るので、弱めから調整するのが基本です。
アームレストとヘッドレスト
アームレストは、高さのみ調整できる「1D」から、前後・左右・角度まで動く「3D」「4D」などがあります。肩の力を抜いて肘を置ける高さに合わせられるか、机に当たらないかを確認しましょう。
ヘッドレストは、リクライニングして休む人には便利なパーツです。前傾で集中する作業が中心なら、使わないことも多いでしょう。必要な人は、高さと角度を調整できるかを確かめておくと安心です。
私のOC707の調整機能
私が毎日使っているニトリのOC707は、ニトリネットの商品説明によると、次のような調整ができます。
- 右レバーで座面の高さを調整
- 左レバーで背もたれの角度の調整と固定。ロックを解除したまま寄りかかるとロッキング
- ボタンを押しながらアームレストの高さを調節。つかんで回すと角度と前後の位置も調節
- ヘッドレストの角度と上下の位置を調節
- フットレストを手前に引き出して使える
ランバーサポートは位置を調整できない固定式(レビューによる)で、座面スライドもありません。それでも、選んだ理由は3万円台という価格のわりに機能と性能がそろっていて、コスパが良いと思ったからで、とくに不満はありません。調整できる部分の多さと価格のバランスで選ぶのも、一つの考え方です。OC707についてはニトリOC707のレビューで詳しく紹介しています。
ニトリ OC707 ポケットコイル

「人間工学」をうたう商品の例
ニトリにも、商品説明で人間工学に触れているモデルがあります。たとえば、ニトリで販売されているDUOREST(デュオレスト)のワークチェアは、商品説明で「人間工学に基づき開発された次世代チェア」と紹介され、左右に分かれた背もたれが特徴です。ドイツの物理学者マティアス・ブリニィッヒ教授が創案した「DUOREST理論」に基づいて開発されたと書かれています。
こうした説明は、メーカーの設計の考え方を知る手がかりになります。ただし、どんな理論に基づいた椅子でも、自分の体に合うかどうかは座ってみないと分かりません。説明を参考にしつつ、最後は試座で確かめるようにしましょう。
ゲーミングチェアとの違い
「エルゴノミクス」をうたうのは、オフィスチェアだけではありません。ゲーミングチェアにも、人間工学に触れた商品説明がよく見られます。ゲーミングチェアは、背もたれが高いコックピット型のデザインで、首と腰のクッション、深いリクライニングなど、くつろぐ機能が充実したものが多いのが特徴です。
一方、オフィスチェアは、デスクワークで長時間座ることを前提に、作業姿勢を支える調整機能を重視したものが多くあります。どちらが良いかは使い方次第です。作業中心ならオフィスチェア、ゲームや休憩も重視するならゲーミングチェア、という考え方で比べてみてください。
保証と部品交換も確認
長く体に合わせて使い続けるには、保証の長さや、部品を交換できるかどうかも大切です。高価格帯のオフィスチェアには、保証が長く、ガスシリンダーやキャスターなどを部品単位で交換できる設計のものが多くあります。
ニトリのオフィスチェアは、モデルによって保証が1年または5年です。ニトリ公式のよくある質問によると、パーツのみの販売はしていませんが、商品によっては手配できる場合があります。長く使うつもりなら、買う前に保証年数を確かめておきましょう。
価格と調整機能のバランス
調整できる部分が多い椅子ほど、価格は上がる傾向があります。一般的には、2万〜5万円台の中価格帯から、ランバーサポートや多機能アームを備えたモデルが増え、5万〜10万円台、10万円以上と上がるにつれて、調整範囲や保証、部品交換の体制が充実していきます。
ただ、高価な椅子ほど自分に合うとは限りません。必要な調整ができて、その範囲が自分の体格に合っていれば、手頃な価格の椅子でも十分なことがあります。オフィスチェア全体の選び方はオフィスチェアの選び方で解説しています。
机やモニターとの関係も大切
エルゴノミクスの考え方では、椅子だけでなく、机やモニターなど作業環境全体を体に合わせることが大切です。椅子の座面高を体に合わせても、机が高すぎたり低すぎたりすると、肩が上がったり、前かがみになったりしてしまいます。
一般的な日本のデスクの高さは70〜72cm前後が多いと言われています。JOIFAの目安(座面高+身長×1/6)と比べて、机が体格に合っていない場合は、椅子だけでなく机側の調整や、足台の使用も考えましょう。
店舗で確かめる手順
エルゴノミクスをうたう椅子を試座するときは、次の手順で確かめると、自分に合うかを判断しやすくなります。
- 座面の高さを、かかとが床につき太ももがほぼ水平になる高さに合わせる
- 奥まで深く座り、膝の裏と座面の先の間にすき間があるか確かめる
- 背もたれに寄りかかり、腰のあたりに背もたれが自然に沿うか確かめる
- 肩の力を抜いて肘を置き、アームレストの高さが合うか確かめる
- リクライニングして、ヘッドレストに頭が自然に乗るか確かめる
- 数分座ったまま、違和感や押される感じがないか確かめる
それぞれの調整が、どれくらい簡単にできるかも見ておきましょう。調整が面倒だと、結局合わせないまま使うことになりがちです。
調整は使う人が合わせてこそ
どんなに調整機能が充実した椅子でも、実際に自分の体に合わせて調整しなければ意味がありません。買ったままの状態で使い続けている人は、一度、座面の高さから順番に見直してみましょう。
調整は、「座面の高さ」→「座り方」→「背もたれの角度」→「ランバーサポート」→「アームレスト」→「ヘッドレスト」の順番で行うと分かりやすいです。ニトリのオフィスチェアの調整方法はニトリのオフィスチェアの調整方法で詳しく紹介しています。
ときどき立ち上がることも大切
どんなに体に合う椅子でも、長い時間同じ姿勢を続けるのはおすすめできません。厚生労働省のガイドラインでも、ときどき立ち上がることがすすめられています。
椅子は姿勢を支える道具です。椅子選びと調整に加えて、作業の合間に立ち上がる、体を動かす、といった習慣も大切にしましょう。座っていて違和感や痛みが続く場合は、椅子だけで何とかしようとせず、医療機関に相談してください。
「エルゴノミクス」と書かれていると、それだけで良い椅子に見えがちです。でも大切なのは、自分の体に合わせられるかどうか。店舗では、まず座面の高さを合わせてから、ほかの調整を一つずつ試してみてくださいね。
エルゴノミクスチェアのよくある質問(FAQ)
Q1. エルゴノミクスチェアとは何ですか?
A. 人間工学(エルゴノミクス)の考え方を取り入れ、人の体に合わせられるよう設計された椅子を指す呼び方です。ただし決まった定義や基準はありません。
Q2. エルゴノミクスチェアと普通の椅子の違いは?
A. 一般的に、座面高・座面奥行き・背もたれ・ランバーサポート・アームレストなど、体に合わせて調整できる部分が多いことが特徴です。
Q3. 座面の高さの目安は?
A. JOIFAの目安は「身長×1/4」です。厚生労働省のガイドラインの解説では、座面高は37〜43cm程度の範囲で調整できることが望ましいとされています(座ってクッションが沈んだ状態の高さ)。
Q4. 高い椅子ほど体に合いますか?
A. 高い椅子は調整範囲や保証が充実していることが多いですが、自分の体に合うとは限りません。必要な調整ができて、範囲が体格に合うかで判断しましょう。
Q5. 足が床につかないときは?
A. 厚生労働省のガイドラインでは、足が床に届かない場合は、すべりにくい足台(フットレスト)を使うとしています。
エルゴノミクスオフィスチェアのまとめ
エルゴノミクス(人間工学)は、人の体や動きの特徴に合わせて道具や環境を設計する考え方です。ただし「エルゴノミクスチェア」という呼び方に決まった定義はないので、言葉だけで選ばず、実際にどこをどれくらい調整できるかを確かめることが大切です。
座面高は「身長×1/4」を目安に、深く座って足裏全体が床につく姿勢をとれるかを確認しましょう。そのうえで、座面奥行き、背もたれ、ランバーサポート、アームレスト、ヘッドレストを、自分の体格と作業に必要な範囲で選びます。
体に合わせて調整してこそ、椅子は本来の力を発揮します。店舗で一つずつ調整を試しながら、自分に合う一脚を見つけてくださいね。

